喫茶ミンカ


明月院へ続く、線路沿いの道を歩いていたら
幼稚園くらいの子どもふたりとお母さんが、
上りの電車に向かって手を振っていた。
運転手さんがファーンと警笛を鳴らして、
手を振って笑顔で応える。
「手を振ってくれたねえ。」
「鳴らしてくれたねえ。」
と三人がうれしそうに話しているのをみて、
私もここに居合わせたことが幸せで、
ほっこりしながら通り過ぎた。


少し歩いたところで、
またファーンと聞こえたので、振り返ると、
下りの電車も鳴らしてくれたようだった。
危険を知らせるためじゃない、
やわらかい音が山あいに響く。
横須賀線の運転手さん、いいな。
今度、私も手を振ってみようかな。


その線路の脇にある、喫茶ミンカ。
古道具や雑貨が、
古い木のぬくもりのある空間になじんで、
ひとつひとつ静かな光を放っていた。
BGMと電車の音のデュエットに身をゆだねて、
スケッチしていたら、
珈琲が冷めてしまった。
ソナチネの木』は、
詩と絵本のあいだのリズミカル。
私の中の私を、
いろんな角度からつっつく一冊。


居住まいを正したいような、
勝手にほどけていくような、
凛としてくつろぎのある場所。
またほかの席からの景色もみてみたい。